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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)3256号 判決

控訴人(一審被告浦和地方検察庁検察官)

補助参加人 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 梓沢和幸

同 清水洋

被控訴人 乙山春子

主文

本件控訴を却下する。

本件参加によって生じた訴訟費用及び控訴費用は、すべて控訴人補助参加人の負担とする。

事実及び理由

一  一件記録によれば、次の諸事実が認められる。

1  被控訴人は、昭和五六年一〇月一五日、原審裁判所に対し、浦和地方検察庁検察官(以下「検察官」という。)及び本件控訴人補助参加人たる甲野花子を共同被告として訴えを提起し、被告検察官に対する関係においては、被控訴人と原判決主文一掲記の亡甲野太郎(以下「太郎」という。)両名の昭和四八年二月二〇日届出による離婚(以下「本件離婚」という。)は、被控訴人が関知しない間に太郎がほしいままに離婚届を提出したことによるものであり、被控訴人には離婚意思がなかったとして、本件離婚の無効確認の判決を、また、被告甲野に対する関係においては、本件離婚が無効であることを理由に、被告甲野と太郎両名の昭和四八年二月二一日届出による婚姻は重婚に当たるとして、その取消の判決を、それぞれ求めた(以下、この訴訟事件を「基本事件」という。)。

2  原審裁判所は、右各請求につき弁論を分離することなく審理を遂げ、昭和五九年四月二六日、被控訴人の右各請求を全部認容する旨の原判決を言い渡し、右判決正本は、いずれも同年五月二日、被告検察官並びに被告甲野代理人にそれぞれ送達された。

3  被告甲野代理人は、原判決を不服として、同年五月一一日、当裁判所に対し、被控訴人を相手方として控訴を提起した(以下、この控訴を「別件控訴」と、その控訴状を「別件控訴状」という。)。なお、別件控訴状に添付して当裁判所に提出された被告甲野の訴訟委任状には、委任事項として、原判決中被告甲野に関する部分について控訴を提起する件は明示されているが、被告検察官に関する部分につき訴訟行為をする件については何ら触れられていない。

4  被告検察官は、原判決に対し控訴の提起をせず、控訴期間を徒過した(この事実は当裁判所に顕著である。)。

5  控訴人補助参加人(以下「参加人」という。)代理人は、基本事件の被告甲野が別件控訴を提起したのに伴い当審において数次にわたり開かれた口頭弁論が終結された後の昭和五九年一一月二七日、当裁判所に対し、「補助参加の申立書」及び「控訴状の補正申立」とそれぞれ題する書面を提出したが、これによれば、参加人は、基本事件の被告検察官を補助するため訴訟参加に及ぶとともに、被告検察官補助参加人として、原判決中、被控訴人と被告検察官との間において、本件離婚を無効とする部分(以下「被告検察官敗訴部分」ともいう。)を取り消す旨の判決を求める、というものである。

二  右各事実関係によれば、参加人は、昭和五九年一一月二七日、当裁判所に対し、基本事件の被告検察官を補助するため訴訟参加の申立をするとともに、基本事件被告検察官補助参加人として、原判決中の被告検察官敗訴部分につき新たに控訴を提起したものと認められるが(本件控訴)、原判決中被告検察官敗訴部分は、被告検察官が控訴を提起しなかったことにより、所定の控訴期間の最終日である昭和五九年五月一六日の経過により確定したことが明らかであるから、参加人の前顕補助参加の申立及びこれを前提とする本件控訴は、いずれも、原判決中、控訴期間の徒過によりすでに確定した部分に係るものとして不適法であり、そのけん欠は補正不能の場合に当たるといわざるを得ない。

なお、参加人代理人が昭和五九年一一月二七日当裁判所に提出した同月二六日付け上申書と題する書面によれば、参加人代理人は、「基本事件の被告甲野は、別件控訴状の提出により、当然に基本事件の被告検察官を補助するため参加する旨申し立て、かつ、被告検察官補助参加人として、原判決中被告検察官敗訴部分についても控訴を提起したものと解されるべきであり、前顕『補助参加の申立書』及び『控訴状の補正申立』は、その趣旨を補完するためのものである。」旨主張するようにも窺われるが、右主張は一件記録を精査し、別件控訴の審理にかんがみても、理由がなく採用することができない。ことに、別件控訴状には、控訴の趣旨として、単に「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求める旨記載されているが、当事者の表示としては、「控訴人甲野花子」「被控訴人乙山春子」と表示されているだけであって、それ以外の表示はなく、参加人が被告検察官に補助参加し、かつ、被告検察官の補助参加人として検察官のために控訴を提起する趣旨は何ら表示されていないのであって、右控訴の趣旨が後に準備書面により「原判決中一審被告甲野の敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求める旨訂正されていること(別件控訴状の記載等についての右各事実は一件記録上明らかである。)は、しばらくおくとしても、また、原判決中本件離婚を無効とする部分が確定することに伴い、基本事件の被告甲野がその判決の効力を受けることになる等の諸事情を考慮に容れてみても、被告甲野及びその訴訟代理人が原判決に対し被告検察官のため(被告検察官敗訴部分の確定を阻止するため)にも控訴を提起する意思であったことを、別件控訴状の記載から認める余地はなく、また、別件控訴状を提出したことにより、当然に主張に係るような補助参加の申立をしたのと同一の効果を認めることもできないのである(この点につき、最高裁判所昭和四三年九月一二日第一小法廷判決・民集二二巻九号一八九六頁参照)。

三  以上の次第であるから、参加人の前顕補助参加の申立は却下し、本件控訴は民事訴訟法三八三条により口頭弁論を経ないで判決をもって却下することとし、訴訟費用に関し同法九四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 後藤静思 裁判官 奥平守男 橋本和夫)

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